遺伝子療法は、1990年に米国にて免疫不全症の治療に試みられてから世界的に研究が進んでおり、近年では、遺伝子療法技術の安全性の向上により、特定の遺伝性疾患に限られていた治療の領域もあらゆる難治性疾患に広がっています。
私たちの体を構成する全ての細胞は、通常、必要に応じて増殖したり、増殖を止めたりして、常に適正な数が守られています。ところが、がん細胞は、必要かどうかに関わらず、周囲の組織を壊してでも増殖し続けて行きます。この、がん細胞が無限に増殖する原因には、大きくふたつの要因があります。
ひとつは、がん細胞の増殖をコントロールしている<がん遺伝子>の働きが異常に強くなり、細胞が次々に増殖を繰り返していくこと。
ふたつめは、がん細胞の増殖を制御する<がん抑制遺伝子>に異常がおこり、増殖を止められなくなってしまうこと。
この二つは、車のアクセルとブレーキの関係に例えられます。細胞増殖を促進させるアクセル役の《がん遺伝子》、細胞増殖を抑制するブレーキ役の《がん抑制遺伝子》といった具合です。
正常細胞は遺伝子により秩序維持し再生と死をコントロールされており、アクセルとブレーキがバランス良く働いている状態です。
しかし、がん細胞では、がん遺伝子の活性化(アクセルの踏みっぱなし)と、がん抑制遺伝子の損傷(ブレーキが壊れてしまった状態)によって無秩序に増殖し続けるのです。
がん抑制遺伝子のはたらき
1細胞の増殖を停止する
2壊れた細胞の機能を修復する
3細胞を死滅させる
(アポトーシス)
がん抑制遺伝子が壊れてしまうと、上記の働きを行うことができません。壊れたまま放置された細胞は制御を失い無限に増殖を続け、やがて「がん発症」となります。
そこで、一度失われた、がん抑制機能の回復のために、「がん抑制遺伝子」を再びがん細胞へ導入することにより細胞本来の機能を回復して自らの力でがんと闘う治療が「遺伝子療法」です。
当院のがん遺伝子療法では、遺伝子製剤を、運び役となる「ベクター」と共に点滴で体内に投与します。
当院のベクターは、「ウィルスベクター」と「リポソームベクター」の2種類があり、患者様の状況やがんの種類、治療の目的等により、有効なベクターを選択します。
また、当院では5種類の遺伝子製剤を用意しております。各遺伝子製剤は「がん」の種類によって有効性が異なることが分かっていますので患者様の「がん」の種類や特性を考慮してこれらを組合せテーラーメイドすることで、幅広い「がん」に対して適応が可能となっています。